越谷市立病院の令和6年度決算では、12億円余りの赤字額を計上した。全国的にも公立病院は赤字病院が多く、約86%の公立病院が経常赤字という調査もある。公立病院は(市立病院)は、地域の広域医療のセーフティネットとして極めて重要な役割を担っている。特に、新型コロナウイルス感染症の拡大期には、感染症患者の受け入れや救急医療体制の維持に大きく貢献し、市民の命と健康を守る最後の砦とな ってきた。また、市立病院は民間医療機関では担いにくい領域(医療点数の比較的小さい事業)、すなわち小児科、産科、救急、精神科など、採算性は低いものの地域に不可欠な医療を提供し続けている。これは、市民の「安心して暮らせるまちづくり」の根幹であり、自治体病院が存在する最大の意義である。全国の自治体病院は、少子高齢化による医療需要の変化、医師や看護師の確保難、診療報酬制度の制約などにより、経営的には厳しい状況にある。本市立病院も例外ではなく、赤字経営が課題となっている。しかし、赤字の要因は「経営努力不足」だけではなく、「地域の安全・安心を守るために不採算部門を引き受けていること」に起因する部 分が大きいと指摘されている。したがって、市立病院の赤字は単純な経営問題ではなく、地域全体の公共 的医療サービスをどう維持するかという政策課題であるともいえる。こうした現状を踏まえると、市立病院は「採算性」だけを尺度として議論はできない。
災害や感染症流行など非常時にも機能する「広域医療のセーフティネット」としての価値を、市として明確に位置づけ、市民と共有することが重要だ。その上で、経営基盤を支えるために傾注していかなくてはならない。一方で、黒字経営を実現している自治体病院も存在しており、本市としても診療報酬の適正化を待つだけではなく、自主的な経営改善の取組みが強く求められている。更に、築50年を迎えようとしている市立病院については、今後の建て替えも視野に入れる必要があり、経営・施設整備の両面から複合的に整理し、市民の理解が得られる形で進めていくことが必要である。
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